Builder’s Playbook – Let Builder’s Build

さて、第5弾です。

前回でUXデザインとPRDについてお話したので、今回はエンジニアリングのチームとの実装についてです。

Working with Engineers

Product Managerの面接ではよく、エンジニアとうまく働けるかがよく問われます。会社によりますが、Product Managerにもエンジニアが受ける技術的な部分の面接を課すところも多いです。こういった背景があるので、よくProdutct Managerにはテックバックグラウンドが必要だと言われます。僕自身もMBAに入る前はエンジニアをしていたのですが、実際にProduct Managerとして働いてみて、この仕事に必要とされる「テックバックグラウンド」って多くの人が思い浮かべるような「コードが書ける」とか「エンジニアにコードのアドバイスをする」みたいなところとは若干違うことに気づいたので、その辺を紹介してみます。

What & How

PMシリーズの一番初めの回でも書きましたが、Product Managerの仕事はWhatを定義することです。何を解決するべきか、解決策は何であるべきかをAnalytics、デザインと一緒に定義していきます。何を解決するべきで、その解決策は何であるべきかがわかったら、エンジニアの出番です。エンジニアはテクノロジーに関してのHowの専門家で、定義された解決策を実現するために必要なテクノロジーのスペックを定義し、実装していきます。

僕も含めてProduct Managerのいない組織でのエンジニアからProduct Managerにスイッチした人の多くはエンジニアに渡す際、Productの定義領域がHowにまで及んでしまうことがよくあります。これ、僕にとっては結構な学びだったのですが、チームのエンジニアがジュニアな人しかいないときはこういうガイダンスも必要ですが、ある程度シニアなエンジニアになるとProduct Managerが先にテクニカルなスペックを出してくるのを嫌います。

Let builders build
(作る者たちの邪魔をしてはいけない)

Uber’s original cultural values

Product Managerは実装方針に関しては基本的にはサポート役であるべきなので、プロダクトスペック(解決されるべき問題とそれを実現するための機能群をユーザー視点から定義したもの)を定義してエンジニアに渡した後は、エンジニアが模索して持ってきたテクニカルスペックをレビューして、プロダクトの観点からの懸念点(このプロダクトはこういう風に進化させていきたいのでこのアーキテクチャだとこのタイミングでガタがくるとか、そのフレームワークだとこのエッジケースがカバーされないとか、ユーザーがこんな風に増える予定なのでそのQPS (query per second)だとやばいとか)をフィードバックするにとどまります。テクニカルなProduct Managerだと、例えばデータベースの選定や、具体的なロジックに関してのフィードバックも行いますが、フィードバックはあくまでもプロダクト視点でのフィードバックで、実装方針はあくまでもエンジニア主導で決定していきます。

Involve Early

エンジニアと働く中で学んだもう一つの大事なことは、彼らをいかに早い段階からプロジェクトに関わってもらうか、です。

これは二つの点から大事です。

まず一つは問題の解決策としてエンジニアしか思いつかないようなことも結構あるということ。エンジニアに解決しようとしている問題を投げかけてみるとUXデザイナーやProduct Managerでは思いもつかなかったようなテクニカルなアイディアが飛び出してくることがあります。それだけでユーザーエクスペリエンスの全部が解決されることは稀ですが、そのテクニカルなアイディアをコアにしてユーザーエクスペリエンスをデザインしていくということはよくあります。

もう一つはデザインのフィージビリティチェックです。ある程度のデザインのフレームワークができたら、まずはそれをエンジニアに見せ、早い段階でエンジニアの観点からフィードバックをもらうことで、エンジニア的に無理そうなところや実装にめちゃくちゃコストがかかりそうなところがわかります。それを知った上でデザインをすることで、よりリーズナブルなデザインになり、デザイン→エンジニアの受け渡しをスムーズにすることができ、エンジニアの実装速度をアップさせることができます。

Agile

二つほど心得的なことを書いたので 笑
一つだけ、戦術的なところのことも書いてみます。笑

アジャイルは、MBAのインターン時代にも書いたことがありますが、(Summer Internship -Practice 参照)おさらいという感じで。

アジャイルは簡単にいうと、開発時のチェックサイクルを短くすることで、チームとして進捗を管理しやすくして、進捗具合やプロダクトの学びを元に方向修正をしやすくするための手法です。

基本的には1週間から4週間で一つのサイクル(スプリント)として、そのスプリント内の自分の持ち時間から実行可能なタスクを決めて実行していきます。
スプリント内ではスタンドアップと言われる進捗確認をとても短い間隔(毎日とか隔日とか)で行います。これによってチーム間での情報共有や、進捗をブロックしているものを共有して解決できる人に助けてもらいやすくします。
各スプリントの最後には大体デモとレトロ(レトロスペクティブ)というものを行います。
デモはそのスプリントで達成したものをみんなで見るという感じです。どちらかというとレビューというよりは、みんなにできたものを見せて褒めあってモチベーションを高めるとか同じチームのメンバーがどういうものを作ってるのか知るというのが目的な気がします。(レビューは、デモとは別に各プロジェクトで独立して行います。)
レトロは、スプリントの最後に、そのスプリントでうまくいったこと、うまくいかなかったことをチームメンバー全員で出し合って、オープンに話し合う場です。その中で話し合ったものの中で、次のステップを取るべきものはリストアップしてチームの中で誰がオーナーになるかを決めてトラックします。

おおまかにいうとこんな感じでしょうか。チームによって違いますが、スプリントは結構エンジニア主導なところが多い気がします。

Product ManagerのAgileへの関わり方は、

  • Agileのタスク用にProductのユーザーストーリーを作る
  • スタンドアップ、その他でエンジニアのブロッカーになっているものを取り除く
  • デモでちゃんとエンジニアを褒める

とかでしょうか。

Productが定義されたら、機能を元にユーザーストーリーを作ります。ユーザーストーリーはユーザーがその機能を使って出来る一つのシナリオで、「〜が〜することができる」みたいな感じで書くのが一般的です。そして、何をもってそれをできたと見なすかというExit Criteriaを定義して、一つのまとまりとしてエンジニアに渡し、それを元にエンジニアが必要に応じて実装手順ごとにサブストーリー/サブタスクを書いていきます。

スタンドアップの話はそのままなので省略するとして、その次のデモでちゃんとエンジニアを褒めるをもう少し書いてみます。これ、Product Managerとして結構大事です。これもまたPMシリーズの一番最初に書きましたが、Product Managerは製品開発チームの心臓であるべきなので、その製品を作って世に出したいと一番思っている人なはずです。そういう人なので、その製品に関するデモは、それがどんなに些細なことでも、どんなにテクニカルなことでも強い興味を示すべきで、そのタスクが完了したことを喜ぶできです。プロダクトリーダーシップという点で、エンジニアにこういう姿勢が見せれるかというのもProduct Managerの大事な職務の一つです。

Wrap Up

外から見るとProduct Managerってエンジニアと密に仕事をしていて、エンジニアのプロジェクトマネジメントをいかに回すかが主な仕事と思われがちですが、実際はそんなこともなかったりします 笑

ただ、エンジニアとプロダクトは基本的には組織的に独立しているので、特別な権限のない中でいかにエンジニアの士気を高めて効率的に製品開発を回すかであったり、その製品が提供できる価値をいかに低コストで早く世に出せるかというのはProduct Managerの大事な資質なので、そういった観点から、Product Managerとしてのエンジニアとの関わり方を書いてみました!

Builder’s Playbook – Forming a Solution Hypothesis

第4弾です。

前回前々回で、Product Manager視点の問題の発見と定義に関して解説してみたので、今回はその次ステップである、解決策について書いてみたいと思います。

PM Responsibility Recap

ではいつも通りおさらいとしてPM Responsibilityのリストを載せておきます。(太字が今回のフォーカスです)

  • 顧客や会社の抱える問題が何か突き止める
  • 顧客や会社の抱える問題はどうやって解決されるのが最適か突き止める
  • 定義された解決策が実際にその問題を解決することを確かめるために必要な最小限のProduct(MVP)と、MVPから理想のProductに発展させるためのロードマップを定義する
  • エンジニアのチームによるMVPの実装を意思決定面からサポートする(実装時にわかった障壁をどう克服するか)
  • アナリティクスのチームによるMVPの実験/検証計画の策定の意思決定面からサポートする
  • 実験結果とInsightをチームに共有し、それらに基づき次のステップを定義する
  • マーケティングチームによるGo To Market Strategyの策定をサポートする
  • 実験からの学びに基づいたPivotを含め、Product Roadmapを次に進める

Solution Hypothesis & Ideal Experience

前回のFoundational UX Researchで、リサーチしたテーマに関する問題とその問題の大まかな特性を把握したのですが、その問題や、問題の特性を知ることで、その問題がどんな風な解決策で解決されそうか大まかなアイディアが湧いてくると思います。

例えば、仮に前回で使用した例の飛行機の遅延というテーマで行なったRippleやFoundational UX Researchで、「ビジネス顧客は時間を気にするので、自身で飛行機の遅延を体験するとその航空会社の便は遅延確率が高いと主観的に思い込んでしまい、リスク回避として次回より他社の航空会社を使いやすくなる」と「非ビジネス顧客は遅延による時間のストレスに加えて、多くの顧客が遅延した際の急なゲートや荷物の受け取り口の変更が分かりにくて自身で周りの色々な機関に聞き回らなくてはいけなかった経験から『もうこの航空会社使わなーい』となってしまう」というのが主なInsightだったとします。

前者であれば、購入から搭乗までのサイクルの中でその航空会社/選んだ便の遅延確率の統計を告知することで、一回の遅延イベントのみで「この航空会社はよく遅れる」という印象を得てしまうことを回避できるかもしれません。
後者であれば、顧客に航空会社側から遅延による変更情報を顧客が必要と思っているであろう時にプッシュで知らせることで、顧客の混乱を和らげることができるかもしれません。

とりあえず、今回は便宜的に後者を取り扱うProductの仮説にしてみましょう。

  • 顧客に航空会社側から遅延による変更情報を顧客が必要と思っているであろう時にプッシュで知らせることで、顧客の混乱を和らげることができるかもしれない

Product Managerとしては、仮説ができるとだいたい2つのことを考えます。

  1. この仮説はどうすれば正しいと検証できるか
  2. この仮説が正しかった場合、理想の顧客体験はどうあるべきか

1.に関して、仮に(たぶん現実にそんなことはないのですが、説明の便宜上 笑)この航空会社は若者をメインターゲットにした格安航空で、自社のアプリがあり、だいたい20%のユーザーがそのアプリを使っていて、かつユーザーの分布が全体とアプリ使用ユーザーでだいたい一緒とということにしておきましょう 笑

その際、一番簡単な実験は、アプリの通知機能(Notification)を使って、変更のゲートや荷物の受け取り口を通知機能、Eメール、SMSで通知し、通知した場合としない場合で遅延便以降の継続利用率に統計的な差異があるかどうかの検証かもしれません。

2.に関しては、アプリの非利用ユーザーに、人に聞いてもらうという手間を取らせずにいかに変更情報をユーザーの知りたいタイミングで伝えるかです。もし1.の実験で最強の結果が出て通知機能がみんなが欲しかった機能だということになれば、いかにアプリの利用率をあげるかにフォーカスをおいてもいいかもしれませんし、その場合、チェックインカウンターや搭乗ゲートの周り等、空港の顧客の導線上にQRコードを載せたバナースタンドやポスター等を置くのも一つの解決策かもしれません。アプリの利用率がなかなか上がらなかったり、そもそも実験が成功したけども最強の結果とまでは言えない程度の効果だったのであれば、他の方法、例えばゲートのディスプレイを利用したり、降機時にCAさんにタブレットを持たせたり首から掛けてもらって、荷物受け取り口をそこに表示しておくなどで、同じく顧客の導線上に情報が必要なタイミングで顧客の目にうつるようにするのが一つの解決策かもしれません。

1.と2.の大まかな方向性が見えてきたら、Product Requirements Documentと呼ばれるドキュメントにします。

PRD (Product Requirements Document)

PRDは、そのProductの全ての要件を記載したドキュメントである。読む人にWhat(そのProductが何をするべきか)を伝えるものだが、デザイナーやエンジニアが彼らの専門性を用いて最適なデザイン、アーキテクチャを思いつけるようにするためHowの部分(そのProductがどのようにそれをするのか)はあえて明記しない

Wikipedia (English) – Product Requrirements Document

Product Managerに「Product Managerって何する人なの?」と聞くと、「PRDを書く仕事だよ」と返ってくることがあります。実際に文字通り「書くこと」が仕事なわけではないのですが、PRDを書く際に必要なプロセスを辿るとそのProductに関してやるべきProduct Managerの仕事が大体網羅されるので、そう言われることがあるみたいです。

PRDには色々なフォーマットがあって、会社によってレイアウトや内容が違いますが、大まかには、

  • このドキュメントを誰がレビューするべきか
  • 解決しようとしている問題は何なのか、なぜその問題は解決されるべきなのか
  • その問題はどうやって解決されるべきか
  • その問題の解決はどうやって計測されるべきか
  • 解決策のデザインとデザインドキュメントへのリンク
  • デザイン上のそれぞれの機能の優先順位
  • エンジニアチームの大まかな実装計画とエンジニアのスペックドキュメントへのリンク
  • アナリティックスチームの大まかな実験計画と実験スペックドキュメントへのリンク
  • マーケティングチームの大まかなGTM計画とGTMドキュメントへのリンク

みたいなことが書かれています。
全ての項目を一気に書くのではなく、わかったところで徐々に追記していくというのが一般的なスタイルだと思います。上記Hypothesis Solution & Ideal Experienceがわかると上記3つから4つは記載できるのではないかと思います。

5つ目からは具体的にどうやってそのProductを作るかの部分なのですが、Wikipediaの定義にもあるようにHowの部分にあたるので、Product Managerは各チームが各項目を定義するのをサポートし、彼らが定義したものをまとめて記載し、彼らの作ったドキュメントへリンクする感じです。

UX Design

上記4つが記載できたら、UX Designerと両方のUX(顧客体験)について議論し、具体的にどういうデザインになるかを定義していきます。ここで議論する内容は必ずしもUIデザイン(スクリーンがどんな色でどんな形でどんなイラストやロゴやコピーを使うかか等)だけではなく、顧客のUX全体を定義します。

デザインに関してはDesignerがリードしていくので、Product ManagerはDesginerの提案するデザインに、各機能がその問題を解決するのに最適か、顧客がどんな人たちかの知識からフィードバックをしていきます。

Product ManagerとしてはDesginerの提案するデザインがかっこいいか、美しいかというのも大事なのですが(ユーザーが使ってくれるか、興味を持ってくれるかに影響するので)、それ以上にそのデザインがユーザーの抱える問題を解決するかに重点を置きます。一番避けたいのはかっこいいけど問題を解決するかが怪しいデザインを採用したことによって、実験が失敗した際、失敗の原因がデザインの悪さからきてるのかと仮説が間違っていたのかの判別が難しくなってしまうことです。

Prototype & Usability Testing

こういったことを防ぐために予算がカツカツじゃない場合はUX Researchのチームと組んでUsability Testingを行います。

ユーザビリティテストもしくはユーザテストとは、ユーザー中心設計のインタラクションデザインにおいて、ある製品を評価するために実際にユーザーにその製品を試してもらう手法のことである。他の方法では得られない、「ユーザーたちが実際にどのようにシステムを扱うか」という直接的な知見が得られる。

Wikipedia (Japanese) – ユーザビリティテスト

上記定義通り、実際にエンジニアがデザインを実装する前に、紙芝居のような形でデザインを数人のユーザーに見せて、彼らがその機能をどのように使うか、使いながらどんなことを考えているかを学びます。Product ManagerやDesignerの意図した通りに使っているか、見落としていたケースがないか、ユーザーがその機能を使っている時に考えていることや感じていることは意図通りか、そうでない場合、それは解決しなくていいのか、解決するならどうデザインを変更するか等のInsightを得るのが目的です。

基本的にはUsability Testingを行ってから、さらに数回、デザインサイクルを回してデザインを改善し、エンジニアのチームにそのデザインを渡します。

さて、今回は解決策の定義までなので、ここまでにします。
エンジニアとの関わり以降を次回書いてみようかなーと思ってます。

Builder’s Playbook – Identifying the Problem Pt. 2

さて、今日も無事投稿遅めですが 笑
今回も前回に引き続き、Product Development Cycleの一番初めのステップについて書いていこうと思います。前回はデータ分析による定量的な部分にフォーカスしたので、今回は定性的な部分にフォーカスして書いてみたいと思います。
個人的には、定性的な部分の方が学びが多かったので、前回のログに比べると若干こちらの方が書きたかったトピックだったりします 笑

PM Responsibility Recap

前回同様、PMの職務領域のおさらいをしておくと

  • 顧客や会社の抱える問題が何か突き止める
  • 顧客や会社の抱える問題はどうやって解決されるのが最適か突き止める
  • 定義された解決策が実際にその問題を解決することを確かめるために必要な最小限のProduct(MVP)と、MVPから理想のProductに発展させるためのロードマップを定義する
  • エンジニアのチームによるMVPの実装を意思決定面からサポートする(実装時にわかった障壁をどう克服するか)
  • アナリティクスのチームによるMVPの実験/検証計画の策定の意思決定面からサポートする
  • 実験結果とInsightをチームに共有し、それらに基づき次のステップを定義する
  • マーケティングチームによるGo To Market Strategyの策定をサポートする
  • 実験からの学びに基づいたPivotを含め、Product Roadmapを次に進める

でした。
このうち今回のトピックは

  • 顧客や会社の抱える問題が何か突き止める
  • 顧客や会社の抱える問題はどうやって解決されるのが最適か突き止める

に使われる定性的な手法、User Experience Research (UXリサーチ)について書いていこうと思います。

What is UX Research?

UXリサーチは、UX(User Experience=顧客体験)をデザインするプロセスに文脈/背景やInsightを得るために体系的に行う、ユーザーやそのプロセス、ペインポイントの調査である。

(多少意訳してますが、出典: Institution Design Foundation)

Double Diamond

UXについて初めて学ぶ際にほぼ確実に出会うのが、Double Diamondです。
Double Diamondは簡単に言うとUXの観点から見た、Product Development Cycleを簡易的に図式化したものです。オフィシャルな情報の出どころはDesign Councilという機関っぽいのですが、簡単にお絵かきして、解説してみると以下のような感じになります。

Double Diamond

UX的にはProduct Developmentを大きく、Discover (発見)、Define (定義)、Develop (開発)、Deliver (世に出す)の4つのフェイズに分けて、各フェイズがExplore (模索)とNarrow Down (絞り込み)のどちらに属するかを説明しています。

Product Development時のメンタリティとして、

  1. 問題の発見段階では心や頭にリミッターをかけずに多くの可能性を幅広く模索する
  2. 問題定義の段階では発見で模索した可能性を吟味してフォーカスすべき分野を絞り込む
  3. 解決策開発の段階では定義された問題を効率的に解決するアイディアを幅広く模索する
  4. 世に出す段階では世に出した際の情報を元に解決策を最適化していく

と、広げる→絞り込む→広げる→絞り込むというサイクルが二つのダイアモンドの形になってるのでこのように呼んでます。ここでのUXリサーチは主に1.の発見段階のリサーチについて書いていこうと思います。

Foundational Research

「何もわからないけど、なんとなくこの辺の人たちにこのトピック(例えば、航空会社であれば、飛行機の遅延など)について困ってる人が多そうで、何かしらの解決するべき問題がありそうだなー」という最初期の段階で行うのがFoundational Researchです。このタイミングで行うリサーチのタイプにはいくつかありますが、個人的によく使う2つを紹介してみます。

Foundational UX Interview

一つ目は、手っ取り早く、そのトピックで困ったことがあるであろう人たちに直接聞いてしまおうという方法です 笑
何か具体的なことを聞くのが目的ではなく、大枠でどの辺に問題がありそうなのかを模索するのに使われます。

ユーザー目線で、ユーザーがそのトピックについて経験したことをインタビューによって追体験をしようとする。何人かのユーザーにインタビューしたあと、それぞれの追体験をもとにプロセスを図式化し、そのプロセスにおいてユーザー達が体験したペインポイントをマッピングしていきます。マッピングした後、どのペインポイントが一番大きな(もしくは根本的な)問題かを決め、ペインポイントに優先順位をつけていきます。

問題/トピックの規模が小さい場合、単純な場合等はこれが一つのプロダクトのアイディアになり、すでに解決策の糸口が見える場合もありますが、多くの場合、Foundational UXインタビューで得られるInsightはそのドメインでの複数のProductに関わるようなProduct Roadmapレベルのものなので、ここから各サブトピックをさらに詳細に定義するために各サブトピックに対してよりフォーカスしたUXインタビューを行うことになります。

また、リソースと問題の規模、Impactの大きさによりますが、ここからさらに優先順位の確度を高めるために、UXインタビューで出てきたサブトピックをサーベイ/アンケートにして、より多くのユーザーのインプットを得るということもあります。肌感覚では、サブトピックレベルでは4〜8人くらいにインタビューすると大体何人目かで「あー、これでサブトピック出切ったな」と思えるタイミングが来ますし、多くのユーザーのペインポイントの優先順位の優先順位が大体同じになることが多いです。逆にProduct RoadmapレベルのInsightを得るUXインタビューで、特に各ユーザーによってユーザー体験が全然違いそうなもの(例えば交通事故後の保険対応とか)の場合は4〜8人のインタビューをしただけではペインポイントの優先順位に確信が持てなかったりするので、より多くのユーザーに向けてのサーベイ/アンケートが有効だったりします。

Ripple

上記のUXインタビューは主にそのユーザー目線でのペインポイントを模索するために行うのですが、特にプロセスが複雑な場合、プロセス全体をもっと俯瞰で見て、プロセス全体においてどんなユーザーが関わっていて、それぞれのユーザー達がどのように関わっていて、問題が発生し解決されていくのか、そのプロセスにおいて各ユーザーにどんなペインポイントがあるのかを模索する必要があったりします。このために行われるのがRippleです。

Rippleについてはなかなか他に解説しているサイトがなかったので 笑
例を使って説明してみようと思います。

まずリサーチのフォーマットですが、ワークショップ形式で行います。ワークショップにはそのトピックに直接的にも間接的にも関わっている人たちがなるべく包括的に揃うように呼びます。

ここに集まった人たちと、架空の超具体的なシナリオをロールプレイしていきます。
ここでの肝は実際に起きたケースを検証していくのではなく、あくまで架空のシナリオをロールプレイしていくことにあります。実際に起きたケースでは一つの事例に集中し過ぎてしまうのですが、架空のシナリオを各分野のエキスパートと何が起きうるのかをロールプレイしていくことで、より汎用性のあるシナリオが描けます。

シナリオを描く中で、まず登場人物をリストアップしていきます。例えば飛行機遅延のRippleを行うのであれば、

  • その飛行機に乗り合わせるお客さん(お客さんでも何人か立場の違う人たちをリストアップします)
  • その飛行機のパイロットやCA、メカニック
  • 到着空港の航空管制官
  • 到着空港で荷物をバッゲージクレームまで運ぶ人
  • その飛行機の遅延によって何人かの乗客が振り替えた別便のパイロット、CA
  • その飛行機が長くゲートにいたことでゲートに入れず結果ゲート変更を強いられかつ遅延してしまったその次の飛行機のパイロット、CA、とその乗客
  • その飛行機が到着後使用される予定だった便も遅延するので、その飛行機のパイロット、CA、とその乗客

というような人たちがリストアップされていきます。なるべく漏れなくリストアップすることが大事なので、実際に飛行機遅延のRippleを行うのであれば、多分もっと多くの人が登場すると思います。

主な登場人物がわかったら、大きなホワイトボードに登場人物を縦軸に記載していき、事象の始まりからワークショップに参加している関係者達とロールプレイをしていきます。事象が起きてから誰が何をするのか、どういう感情になるのかを参加者達と議論し、横軸を時間軸としてそれぞれの行動や感情を記載していきます。各登場人物同士の行動、感情に関係がある場合は矢印等で表現していきます。時間軸であるの横軸の一番上にその事象の主なマイルストーン(例えば飛行機遅延であれば、飛行機の故障、搭乗時間の変更X回目等)を記載していくとプロセス全体の視認性がより高まります。

こうして全体のプロセスの中で全ての登場人物の行動、感情の推移を同一時間軸でマッピングをし、その後参加者全員で、全体プロセスの中の各登場人物の行動/感情で「うまくいっていること」、「改善されるべきこと」「プロセスとして成立していないこと」にそれぞれ緑、オレンジ、赤等のシールを貼っていきます。

このステップを終えると、全体のプロセスの中でどの時間軸でどの登場人物にどんなペインポイントがあるのか、俯瞰で見ることができます。また、赤やオレンジのシールの数で、それぞれのペインポイントも大枠で優先順位がつけられます。

これをもとに各ユーザーについてUXインタビューを行ってさらに深く、具体的にペインポイントを探っていきます。

Wrap Up

さて、今回もめちゃくちゃ長くなってしまいましたが、顧客、会社の抱える解決するべき問題を突き止めるステップにおいてのUXリサーチについて解説しました。簡単に言うと大きくUX InterviewとRippleというアプローチがあって、問題の複雑さや大きさによって使い分けましょうというお話でした。

UXリサーチはScience的な要素よりもArtな要素がとっても大きいと思います。Product Managerとしては、前回のログで解説したよりScienceな部分の定量的なInsightと、今回のログで紹介したよりArtな部分の定性的なInsightを上手に組み合わせて、問題を包括的に、かつより深く理解するのがProductを成功に導くための秘訣だと思います。

Product ManagerというとエンジニアとProductを作るのが主な仕事と思われがちですが、以前紹介した”Fall in love with the problem, not the solution”の言葉にあるように、問題を誰よりも理解するのがProduct Managerの第一歩で、もっとも重要な仕事といっても過言ではないと思うので、ちょっと詳し目に解説してみました。